卒業生と在学生の絆を

『木野通信』No.38 巻頭言, 2004年7月

「どの大学を選ぶべきか。全国八〇〇を超える大学のなかからたった一つの大学を、自分の愛すべきアルマメーター(母校)として選択することはむつかしい問題である」──創立時の大学案内の巻頭にある岡本清一初代学長の一文は、こう書きはじめられ、「この新しい大学創造の仕事を分担しようとする学生諸君! 諸君の参加をわれわれは待っている」と結ばれていました。

以来、京都精華大学は教職員と学生とがともに創りつづけてきた大学であったはずです。大学創造の仕事とは、ここで生起した大学教育そのものを意味することは言うまでもありません。そして卒業生は自分たちがその創造の仕事を分担したことを誇りに思っているでしょう。また、ただ懐かしむだけではなく、毎年その母校に入学してくる若い人たちに同胞意識をもち、その気風を共有したいと強く願っているにちがいありません。まさに理念によって成りたつ大学の姿です。

しかし、このことを維持する努力や工夫が足りなかったという反省が大学の私たちにはあります。卒業生と在学生の間をつなぐ場、交流の機会が、意識的に計画されてこなかったと言わなければなりません。さまざまな側面から、卒業生と在学生の間に共有の精神があることが実感できるよう、またその精神的共有が実際に具現化されるよう、開学四〇周年までの四年間全力を傾けようと大学では考えています。

日本の私立大学が直面している危機的状況であればなおのこと、この当然の課題に力を注がなくてはなりません。昨年から、新たに入学した人たちに、まずこの大学の歴史を知ってもらうための時間をもうけました。オリエンテーションと呼ばれるものはそれまでもあったのですが、内容は履修登録のしかたなどが中心で、具体的にどのように大学が創られてきたのかという歴史を伝えようとするものではありませんでした。

このようなことの必要性が長いあいだ意識されなかったのは悔やまれるところですが、遅ればせながら実施した、その効果は確かなものでした。三六年前に、ほんとうに小さな短期大学として発足してから今日の四千人規模の姿になるまでの足どりを知ると、新入生の諸君は現実感をもって自分自身を大学の歴史のなかに位置づけることができるようです。どのような大学教育を目指してこの大学が創られたのか、どのような学生が学んできたのか、具体的な歴史を語ってこそ、有意に伝えることができたのです。

一方、卒業生からも、ありがたい問題提起を聞くことがあります。二〇年も三〇年もまえに卒業した人たちから、まれにみる元気な大学でありつづけるために自分ができる手助けをしたいという申し出がありました。この場を借りて感謝いたします。

また、知っている高校生に大学を紹介したいという人も少なくありません。例にもれず志願者が年々減少している状況です。できるだけ多くの若者にこの大学の存在を知ってもらわねばなりませんが、卒業生からの紹介ほど心強いことはありません。もちろん大学からは案内の資料を送ることにしていますが、紹介者のネットワークを創りだし、さらに精神的な絆を強められないものかと考えています。多くの情報がよせられることを期待しています。

建学の精神が生き生きと持続するため、卒業生と在学生との絆を強めるため、どんな提案でも歓迎します。大学に連絡していただくようお願いいたします。