GPに選ばれた京都精華大学

『木野通信』No.39 巻頭言, 2004年11月

日本の大学がおかれている状況は、わずか十数年まえにはほとんどの人が現実感をもって予想することもなかったほど、おそろしい勢いで変化しつつあります。

急激な状況変化とは、一方では、年々縮小する大学進学者層をめぐっての大学間生き残り競争の激化であることは言うまでもありません。他方では、学生の「学力低下」問題が強く意識され、大学の社会的存在意義がますます問われるということが現実化してきました。それゆえ、ここには、大学の改革、大学教育の改革という、新たな、多元的な競争の場が出現してきました。その教育の内実や成果を問うことがほとんどなかった、日本的な学歴社会の安易さは、消滅するしかありません。

しかも、この教育改革の競争に参入することなく、学生数を確保するという経営的競争に生き残る道筋はほとんどありえません。私たちの京都精華大学にとっては、大学教育の再生・改革という、その本来の任務を前面に押しだしていくことのできる局面に、いよいよ入ったと言うべきです。

現実の教育改革競争のひとつに、文部科学省が昨年度から実施している「特色ある大学教育支援プログラム」という事業があります。全国から優れた教育事例(GP)を厳選するものですが、今年度、京都精華大学の取組が選ばれました。人文学部環境社会学科の学生が学外の自治体や高等学校などで環境マネージメント・システムの構築に直接責任をもって関わるということが、その内容の中心にあります。もちろん、芸術学部を含め学内全体での環境マネージメント・システム(ISO14001)の運営がその基盤となっていることは言うまでもありません。また、人文学部でつくりだした、半年間にわたり他の科目履修はせずに、ひとつのテーマで徹底的に学ぶ「インディペンデント・スタディー」(調査演習・実務演習など)という教育方法の成果でもあります。

今回のGP選定は京都精華大学の実力を示す一端でしかありませんが、急激に現実化した改革競争に確かな一歩を踏み入れることができ、注目を集めることができたことを率直に喜びたいと思います。それは、なによりも、この大学が小さな短期大学として誕生したときから目指してきたことの一端であるはずだからです。

三七年まえの開学当時、多くの日本の大学は大学教育の実質を失いつつありました。「マスプロ(大量生産)大学」といわれ、また短期大学は「花嫁大学」といわれる時代でした。そのような大学の状況を批判し、本来の大学教育をとりもどすべく、この大学は創られました。「今日の『失われた大学教育』を、京都の地において回復することに、われわれは使命を感じている。この新しい大学創造の仕事を分担しようとする学生諸君! 諸君の参加をわれわれは待っている」──これは、初年度の大学案内の巻頭に岡本清一初代学長が記した言葉です。

大学は現実社会のなかにしか存在しえませんが、その社会がようやく「失われた大学教育」の回復を現実に求めはじめ、教育改革の先導者としての京都精華大学の真価が問われる時代になったのだと思います。