若者の実力が時代をつくる──京都精華大学の新学科構想──

『木野通信』No.31 巻頭言, 1999年5月

2000年4月から二つの新学科をスタートさせる計画で、現在設置認可申請中です。人文学部には「環境社会学科」を、また美術学部には、現在のカトゥーン中心のマンガ分野をもとにしながらストーリー・マンガの領域を大きくとりいれ「マンガ学科」を設置する予定です。

「環境社会学科」も、「マンガ学科」も、大学での本格的な教育と研究が強く求められている現代社会の大きな課題をその対象としています。地球規模での環境問題は、いうまでもなく人間の社会と文化のつくりだす問題です。科学技術に焦点をあてるだけではけっして解決に向かうことはありえません。偏狭な道徳主義をふりかざすだけでもなにも改善しないでしょう。また、これからの世代がつくりだす現実の社会の姿としてしか、この問題への答えは存在しません。そういった方向へと進むことができるような社会学的・人文学的な教育と研究の活動が、この「環境社会学科」の目標です。

マンガはこれまで、ある意味で不当な扱いしか受けてこなかった、しかしきわめて大きな実力を発揮しつつある芸術ジャンルです。とりわけ日本におけるマンガ文化の発展は、種々のメディア技術の進化とあいまって世界から重大な関心をあつめています。世界のアニメーションの70パーセント、ビデオ・ゲームは90パーセントが日本製であるといわれています。日本で育った人であれば、自分の世界観や感性のどれほどがマンガやアニメーションによって培われたかを思いだすことができるはずです。なにより日本のマンガは思想的タブーの少ない表現メディアでした。フランス革命の時代に風刺画がはたした以上の大きな社会意識上の役割をマンガがはたしつつあることをだれも否定できません。このマンガの、さらに高い質的な発展のための活動が、この「マンガ学科」の目標です。

どちらの学科も、若い世代の人間が次の時代をきり拓くために、大学に求められているものです。カリキュラムの計画にも、学生が主体的にこの課題に参与していくよう、いっそうの工夫を加えました。木野通信のこの号では、この新学科計画の紹介に焦点をあわせました。