どうすりゃいいのか、放射能──臨界事故の意味するもの

1999.10.23

東海村の臨界事故は、結局たいしたことなかったって新聞に書いてあったぜ。なにしろ、チェルノなんとかの事故の何万分の一ぐらいのもんだって。

あほ、チェルノブイリだ、チェルノブイリ。チェルノブイリの何を、東海村の何と、どんな方法で比べて、何のためにいっているかもわからずに、知ったかぶりをするんじゃない。

そんなに怒らんでもいいじゃない。新聞に書いてあったんだから。ひょっとすると、なにかい、東海村の事故がもっと大ごとだったらよかったなんて、ひそかに思っていて、それを小さい、小さいというもんだから、怒ってるのかい。

そんなんじゃない。小さければ、小さいほどいいのは、あたりまえだ。おまえみたいなアホが、簡単にだまされて、なんでもなかったみたいにいうのが気にくわねえ。

アホで悪るうござんした。でもねえ、俺まで敵にするこたないんじゃない。放射線だか放射能だかしらねえけど、原子力っていったらビリビリして、顔つきまで変わっちゃうんだから。

すまん、許せ。とにかくな、JCOのあの「沈殿槽」にあったのは純粋のウラン235に換算して2キログラムとか4キログラムだ。かたや、チェルノブイリもそうだが、そのへんの原発に装填されているのは純度が2パーセントとか3パーセントとかの二酸化ウランで30トンとか40トンとかだ。純粋なウランに換算すると、えーと、1トン、つまり1000キログラムぐらいかい。

掛け算、割り算は弱いんだ。まあ、信用することにして、だから何だい。

JCOはウラン燃料をつくるところで、原発じゃない。一方、ウラン燃料を装填して核分裂連鎖反応を意図的に起こしているのが原発だ。だからチェルノブイリでは、運転による核分裂連鎖反応の結果、たくさんの核分裂生成物質がたまっていて、それが意図せざる核分裂連鎖反応の暴走が起こって、一挙に大気中に吹きあげられてしまった。

カクブンレツセイセイブシツ?

放射能だよ、死の灰ってやつだ。とにかく、広島原爆にしたら数十発から数百発分だと考えたらいい。十と百では、ずいぶんちがうが、これは俺のせいじゃない。まだちゃんとつきとめられていないからだ。

へー、ロシアだけじゃなくてアメリカからも、世界中から科学者が集まって、事故調査したんじゃないの?

そうそう、もう13年もまえのことだが、わかってないんだ。一方、東海村で起こったことは、大変なことだったけれど、そこにあった硝酸ウラン20キログラム近くの全量が連鎖反応をしてしまったわけではない。つまり、純粋ウランでいえば2キロとか4キロとかが全部連鎖反応を起こしてしまったわけではない。

えっ、ちょっと、ちょっと。全量だったら、広島原爆で、えーと、2発から4発!? えーっ、新聞にはそんなこと書いてなかったぜ。

やっとわかったか。沈殿槽を取り囲む冷却水をぬくことで、ようやく連鎖反応を終息させることができたという幸運がなければ、ほんとにどうなっていたか見当もつかない。例のステンレスのバケツで溶液を流し込むためのロートがさしこんであった小さな覗き穴が、何かでふさがってしまえば、熱も圧力もあがって、それこそ爆発したかもしれない。そのときに、連鎖反応が全量の数分の一にまでに進行してしまえば...

そしたら、最悪の場合は、原爆なみの死の灰が!

だから、10キロ圏内屋内退避だったんだよ。新聞配達も、郵便配達も、宅配便も、10キロ圏立ち入り禁止、道路も、鉄道も、その区間はストップだったんだ。忘れるなよ。もちろん、10キロで十分かどうか、なんの保証もない。屋内でいいはずもない。しかし、かといって、どうしたらいいのか。おまえだったら、どうする。

わかんねえよ。どうしようも、ねえじゃないか。知ってたら、そりゃガキをひっかかえて逃げる...かもしれねえ。しかし、放射能ってやつが、いつ俺んちのほうに流れてくるか、どうやってわかるんだい。

そりゃ、理屈ではいろいろいえるが、やっぱり難問だろう。こんど作ろうとしている「原子力防災法案」では、事故の際の避難など必要な措置を指示するのは国の政府で、指示されるのは自治体、住民だ、ということになっている。住民は、事故についての情報は一番最後に伝わるところにいて、しかも国のトップの指示に従うだけの立場なんだ。原子力事故、放射能漏れ事故が、どんなにやっかいかわかるだろう。事故現場の職員だったら、周りのみんな逃げろっていわなきゃならないだろうが、それで済むようなことじゃないんだ。

こわー……